住宅性能表示制度1/
地震に強い家とは? 耐震性能の見方と構造の基本
「地震に強い家がほしい」
家を建てる人なら誰もが願うことです。でも、強さは見た目ではわかりません。完成すると壁の中に隠れてしまう柱や金物、床下の基礎、その下の地盤こそが、いざというときに家族の命を守ります。この記事では、住宅性能表示制度のうち、地震への強さを示す「構造の安定に関すること」を中心に解説します。読み終わるころには、住宅会社の説明を聞きながら「この家はどれくらい地震に強いのか」を自分の目で確かめられるようになることを目指します。
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住宅性能表示制度そのもののねらいや仕組み(第三者評価、評価書の種類、10分野の全体像など)は、別記事「家選びの“共通のものさし”-住宅性能表示制度とは?」で詳しく解説しています。
まず知っておきたい ― 山梨県の地震リスク
日本は世界でも有数の地震大国で、山梨県も例外ではありません。県内には曽根丘陵断層帯や糸魚川(いといがわ)-静岡構造線断層帯などの活断層があり、さらに南海トラフの巨大地震や首都直下地震の影響も受ける可能性があります。
山梨県が令和5年(2023年)にまとめた地震被害想定調査では、「想定外をなくす」という考え方のもと、県に影響を与える地震をあえて最大級に見積もっています。その結果、最も被害が大きくなるのは曽根丘陵断層帯を震源とする地震で、建物の全壊が最大で約9万4千棟、死者は最大で約4千人に達すると予測されています。揺れは県内の広い範囲で震度5強以上、甲府盆地など揺れやすい地盤の一部では最大震度7が想定されています。
ポイント
これらの数字は「必ずこうなる」という予言ではなく、被害を小さくするための準備として、起こりうる最大級の地震を想定したものです。死者の多くは建物の倒壊によるものと分析されており、だからこそ住宅そのものを強くすることが、命を守る最も確実な備えになります。
「構造の安定に関すること」とは何か
住宅には、地震・暴風・積雪のほか、人や家具の重さ(積載)、建物自身の重さ(自重)など、さまざまな力がかかります。これらが大きくなると建物は損傷し、最後には壊れてしまうことがあります。とはいえ、どんな地震でも無傷の家を造るのは現在の技術では非常に難しく、費用も莫大になります。そこで制度では、現実的な2つの目標を立てています。
2つの目標
- 損傷防止:数十年に一度(稀に)起こる程度の地震で、大きな修理が必要なほどの著しい損傷を受けないこと。
- 倒壊等防止:数百年に一度(極めて稀に)起こる程度の大地震でも、人命が失われるような壊れ方をしないこと
評価の対象になるのは、柱・梁(はり)・主要な壁・基礎などの「構造躯体(こうぞうくたい)」、つまり力を支えている骨組みの部分です。内装や天井、設備機器などは評価の対象に含まれません。また、構造躯体が力を発揮する前提として、地盤や基礎についての情報もあわせて表示されます。
注意
地盤や基礎の情報は「性能の良し悪し」を直接表すものではなく、どんな前提で設計されたかを確かめるための情報です。さらに、地震による液状化や地すべりといった“地盤災害そのものの危険性”は、この性能表示の項目には含まれていません。ハザードマップなど別の情報もあわせて確認することが大切です。
耐震等級の見方
地震に対する強さは「耐震等級」で表されます。地震については、倒壊等防止と損傷防止を“別々の等級”で表示するのが特徴です。耐震等級(倒壊等防止)の各等級は、建築基準法が求める地震の力を基準に、次のように決められています。
| 等級 | 耐えられる地震の力 (建築基準法比) | 目安・相当する建物の考え方 |
|---|---|---|
| 等級3 | 等級1の1.5倍 | 消防署・警察署など、防災の拠点となる施設に求められる最も高い水準に相当。 |
| 等級2 | 等級1の1.25倍 | 学校や避難所など、災害時の拠点となる施設に求められる水準に相当。 |
| 等級1 | 建築基準法レベル(1.0倍:最低基準) | 震度6強~7程度の大地震で倒壊・崩壊しないことを目標。法律上の最低基準。 |
等級2・等級3は、ただ「倒れない」だけでなく、大地震のあとも建物を使い続けられることを想定した水準です。等級2は学校や避難所、等級3は消防署・警察署といった、災害時に拠点となる施設に求められる強さに相当し、これらの施設は地震のあとも大きな補修をせずに機能し続けることが目標とされています。住宅でいえば、それだけ「被災後もそのまま住み続けられる可能性が高い」ことを意味します。
住み続けられるという安心
大地震で自宅に住めなくなると、避難所や仮設住宅での慣れない生活が長く続き、心身への負担も大きくなります。耐震等級2・3の家は、倒壊を防ぐだけでなく、被災後も住まいに留まれる可能性が高い点が大きなメリットです。住まいが無事なら、暮らしの再建もぐっと早くなります。
一方の損傷防止についても考え方は同じで、等級2は基準の1.25倍、等級3は1.5倍の地震の力に対して大きな損傷が生じないことを目標にしています。ここで基準となる「稀に(数十年に一度程度)発生する地震」は、東京を例にとると震度5強程度に相当します。つまり損傷防止は、数十年に一度ほど起こりうる中規模の地震に見舞われても、大きな修理をせずに住み続けられることをめざす性能だと考えるとよいでしょう。あわせて、台風など暴風への強さを示す「耐風等級」(等級1=建築基準法レベル、等級2=その1.2倍)や、多雪区域でのみ表示される「耐積雪等級」もあります。
豆知識
等級2・等級3は、災害時に機能を保つべき公共施設の設計の考え方(重要度を割り増す係数)にならったものです。近年は地震保険の保険料の割引(耐震等級1で10%、耐震等級2で30%、耐震等級3で50%)とも結びつくため、住宅を購入する際、耐震等級3を選ぶ人が増えています。
地震に耐える3つの仕組み ― 耐震・制震・免震
建物が地震に対抗する仕組みには、大きく3つの考え方があります。
耐震構造
壁や柱、接合部などを強くして、建物自体の“強さ(強度)”と“ねばり強さ(靱性)”で揺れに耐える方法です。最も基本的で、追加の装置が不要なため費用を抑えやすく、一般的な一戸建て住宅の多くがこの耐震構造です。
制震構造
建物の中にダンパー(揺れを吸収する装置)を組み込み、揺れのエネルギーを熱などに変えて和らげる方法です。繰り返しの揺れに強く、上階の揺れを抑える効果が期待されます。
免震構造
基礎と建物の間に免震装置を入れ、地面の揺れを建物に伝えにくくする方法です。揺れを大きく減らせますが、装置や敷地の制約、費用の面から戸建てではまだ多くありません。
この記事の前提
一般的な戸建ては耐震構造が中心です。そこで以降は耐震構造を前提に、「家のどこが、なぜ大切なのか」を見ていきます。
耐震構造で本当に効くポイント
耐震構造の家は、次の3つの要素がそろって初めて、設計どおりの強さを発揮します。どれか一つでも欠けると弱点になります。
壁を強くする(壁の量)
地震のとき家を横から押す力(水平力)に耐える主役は「壁」です。筋交い(すじかい)を入れたり構造用合板を張ったりした丈夫な壁を「耐力壁(たいりょくへき)」と呼びます。建物の重さや大きさに見合うだけの耐力壁の量(必要壁量)を確保することが、強さの土台になります。
壁の配置バランス
強い壁をたくさん入れても、片側に偏っていると地震のとき家が“ねじれて”しまい、壁の少ない側から壊れます。南側を大きな窓にして北側に壁が集中する、といった間取りは要注意です。建物を四つに分けてバランスを確かめる方法(四分割法)などで、東西・南北の各方向に耐力壁をバランスよく配置することが重要です。
接合部(つなぎ目)
強い壁も、柱や土台から外れてしまえば力を発揮できません。大地震では柱が土台から引き抜かれる力が働くため、柱の上下や土台との接合部を金物(ホールダウン金物など)でしっかり留めます。どの場所にどれだけの強さの金物が必要かは、柱にかかる力に応じて計算(N値計算など)で決めます。「壁の強さ・配置・接合部」は、いわばチームとして働くと考えてください。
すべての前提 ― 基礎と地盤
どんなに上部の建物を強くしても、それを支える基礎と地盤がしっかりしていなければ意味がありません。耐震を考えるうえでの“大前提”が、この足元です。
基礎がなぜ重要か
基礎は、建物の重さや地震の力を地盤へ伝える役割を持ちます。基礎が壊れたり傾いたりすると、上の建物が無事でも家全体が傾き、住み続けられなくなります。住宅では、底面全体で支える「ベタ基礎」や、壁の下に帯状に設ける「布(ぬの)基礎」などが使われ、鉄筋の入れ方や厚みが性能を左右します。
地盤がなぜ重要か
地盤がやわらかいと、家の重さで少しずつ沈んだり、場所によって沈み方が違って家が傾いたりします(不同沈下)。さらに、水を多く含むゆるい砂地盤では、強い揺れで地盤が液体のようになる「液状化」が起こり、家が沈んだり傾いたりすることがあります。山梨県の被害想定でも液状化の危険度が評価されており、甲府盆地などで注意が必要とされています。
地盤が弱い場合はどうする?
まず、家を建てる前に地盤調査を行い、地盤の強さを確かめます。戸建てでは、先端がねじ状のおもりを回転させて沈み方から地盤の固さを調べる「スウェーデン式サウンディング試験(現在はスクリューウエイト貫入試験/SWS試験とも呼ばれます)」が広く使われます。このほか、地面に伝わる波の伝わり方から地盤の硬さを調べる「表面波探査法」や、土を実際に採取しながら深い地盤まで詳しく調べる「ボーリング調査(標準貫入試験)」などの方法もあります。その結果、地盤が弱いと判断された場合は、次のような対策をとります。
- 表層改良:地表近くの土をセメント系の材料で固めて強くする(比較的浅い軟弱層向け)。
- 柱状改良:地中にセメント系の材料で柱を造り、これにより地盤全体で建物を支える(やや深い軟弱層向け)。
- 砕石パイル工法:地中に砕石(細かく砕いた石)を柱状に詰めて締め固め、建物を支える。セメントを使わないため環境負荷が低く、砕石の空隙により排水性が向上し、液状化の抑制効果も期待される。
- 鋼管杭(こうかんぐい):鋼管を硬い地盤まで打ち込み、しっかりした層で建物を支える(深い軟弱層向け)。
地盤改良にはこのほかにもさまざまな工法があり、軟弱層の深さや土質、液状化のリスクなど地盤の状況に応じて、適した方法が選ばれます。地盤の状態に合った対策をとることで、強い建物の性能を十分に活かせます。性能評価書では、地盤や杭の許容支持力、基礎の構造方法などの情報もあわせて確認できます。
まとめ
「地震に強い家」とは、強い壁を、バランスよく、確実な接合部でつなぎ、それをしっかりした基礎と地盤が支えている家です。そして、その強さを誰が見ても同じ基準で確かめられるのが、住宅性能表示制度の「構造の安定に関すること」です。
家は人生で最も大きな買い物の一つであり、家族の命を守るシェルターでもあります。耐震等級と評価書の見方を知っておけば、住宅会社の説明をうのみにせず、納得して選ぶことができます。この記事が、安心できる住まいづくりの第一歩になれば幸いです。
主な参考資料
新築住宅の性能表示制度ガイド(令和7年12月1日施行版)
日本住宅性能表示基準(平成13年国土交通省告示第1346号)
評価方法基準(平成13年国土交通省告示第1347号)
令和5年 山梨県地震被害想定調査報告書